先に白状します。この記事は公平ではありません。編集部は中島哲也監督の映画が大好きだからです。
それを差し引いても、言わせてください。8月28日公開の『時には懺悔を』は、今年の日本映画の"事件"になります。理由を順番に説明します。
18年、誰にも撮らせなかった企画
『下妻物語』で笑わせ、『嫌われ松子の一生』で泣かせ、『告白』で日本アカデミー賞最優秀作品賞をかっさらった中島哲也。その鬼才が原作の打海文三『時には懺悔を』(角川文庫)に出合ったのは、実に18年前のことです。
なぜ18年もかかったのか。この物語の中心には、重い障がいを抱えた少年がいます。監督自身、当初は「障がい児の方に出ていただく映画など不可能」と否定され続けたと明かしています。それでも企画を手放さず、『来る』(2018)から8年の沈黙を経て、ついに実現させた。執念のフィルモグラフィーの、いちばん深いところにある一作です。
物語は、探偵・米本(佐藤二朗)が事務所で刺殺されるところから始まります。「死んだ方がマシな人間」と言われた男の死の真相を、元同僚の探偵・佐竹(西島秀俊)と助手の聡子(満島ひかり)が追ううち、9年前の新生児誘拐事件と、父(宮藤官九郎)と暮らす少年・新の存在に行き着く——。ミステリーの形をした、再生の物語です。
西島秀俊と満島ひかり、"初めて"が2つ重なる奇跡
このキャスティング、冷静に考えるとすごいことになっています。
『ドライブ・マイ・カー』で世界に届いた西島秀俊が、中島組に初参加。演じる佐竹は、脳性麻痺の息子を亡くし、自責を酒で薄めて生きる探偵です。あの端正な佇まいの底に沈んだものを、中島哲也が引きずり出す。想像するだけで胃が痛い(褒めています)。
そして満島ひかり。監督とは"13年越しの約束"がようやく実現した初タッグで、監督は「満島以外に聡子役は想像できなかった」とまで言い切っています。当の本人は「撮影を終えた時は満身創痍」。『愛のむきだし』の頃から、この人の"満身創痍"は必ず画面に焼き付いてきました。期待しかありません。
さらに黒木華、宮藤官九郎、柴咲コウ、役所広司、塚本晋也、片岡鶴太郎。キャスト表がそのまま日本映画の戦力図みたいな座組です。
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「生きていく。たとえ神様なんていなくても――」
本作のキャッチコピーです。中島哲也はこれまで、復讐する母(『告白』)、堕ちていく女(『嫌われ松子の一生』)と、"救われなさ"を撮り続けてきた監督でした。その人が18年かけて撮りたかったのが、喪失を抱えた大人たちが小さな命と出会って再生していく物語だという事実に、もうすでに少しぐっと来ています。
当初2025年6月の公開予定から1年以上の延期を経て、ようやくスクリーンに届く一作。完成披露試写会は満員御礼で、登壇した黒木華は「重たいテーマの中に温かいものを感じる好きな映画」と語っています。その登壇者には「スペシャルニーズスーパーバイザー」という聞き慣れない肩書きのスタッフの姿も。障がいのある出演者を支える専門職をきちんと座組に置く——かつて「不可能」と言われた企画を、中島哲也は制作体制ごと作り上げて実現させたわけです。
『下妻物語』から22年で7本——中島哲也のフィルモグラフィー
ここで監督のキャリアを整理しておきましょう。CMディレクター出身の中島哲也は、鮮烈な色彩と音楽の使い方で知られる映像の巨匠ですが、『下妻物語』以降の監督作は22年で7本だけ。多作とは正反対の、一本ごとに全部を注ぎ込むタイプの作り手です。
| 年 | 作品 | ひとこと |
|---|---|---|
| 2004 | 下妻物語 | ロリータ×ヤンキー。ポップの皮を被った最高の友情譚 |
| 2006 | 嫌われ松子の一生 | ミュージカル仕立てで女の転落と愛を描いた代表作 |
| 2008 | パコと魔法の絵本 | 極彩色のファンタジーで泣かせにくる怪作 |
| 2010 | 告白 | 日本アカデミー賞最優秀作品賞。米アカデミー賞外国語映画部門の日本代表にも |
| 2014 | 渇き。 | 暴力と混沌に振り切った問題作 |
| 2018 | 来る | ジャンル映画(ホラー)への挑戦 |
| 2026 | 時には懺悔を | 構想18年、8年ぶりの新作 |
ポップと毒を同居させた前半、『告白』を境に人間の暗部へ潜っていった中盤——そのどちらでもない「再生の物語」を、18年温めた末に持ってきた。このフィルモグラフィーの流れで観ると、本作が特別な位置にあることがわかるはずです。
中島哲也作品を、データで振り返る
当サイトでは、初期作から『来る』まで、中島哲也が手がけてきた映画のレビュー評価を独自に集計したランキングを公開しています。『告白』『嫌われ松子の一生』など名作揃いなので、劇場へ行く前の予習に、ぜひチェックしてみてください。
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それでは皆様、ぜひ劇場でこの”事件”の目撃者になりましょう。
映画『時には懺悔を』 2026年8月28日(金)全国公開 / 配給: ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント / 監督: 中島哲也 / 脚本: 中島哲也、門間宣裕 / 原作: 打海文三『時には懺悔を』(角川文庫)/ 出演: 西島秀俊、満島ひかり、黒木華、宮藤官九郎、柴咲コウ、佐藤二朗、役所広司 ほか / 128分
本記事の作品情報は2026年8月時点の公式発表・各種報道に基づきます。
