asobidiot

DATA-DRIVEN NOVEL RANKING

安部 公房

独自に収集した評価データで選ぶ、"本当に愛されている小説"のランキング

PROFILE

東京府北豊島郡(現・東京都北区)生まれ、幼少期を満洲の奉天で過ごした小説家・劇作家・演出家。高校時代からリルケとハイデッガーに傾倒し、戦後は花田清輝らの芸術運動に参加しながら創作の幅を広げた。1951年に発表した「壁 S・カルマ氏の犯罪」で第25回芥川賞を受賞。その後、都市に生きる人間の孤独と他者との断絶をテーマに、超現実主義的・実験的な手法で「砂の女」「他人の顔」「燃えつきた地図」「箱男」「密会」など数多くの長篇小説を発表した。1973年には自ら演劇集団「安部公房スタジオ」を創設し、演出家としても国際的な評価を受けた。作品は世界30数か国で翻訳出版されており、晩年はノーベル文学賞の有力候補と目されていた。1993年、急性心不全により68歳で死去した。

Wikipedia

ながら聴きでもご視聴いただけます

ランキング

1砂の女

砂の女

1962年刊行

8,471pt

TOTAL SCORE

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に沈んでいく一軒家に閉じ込められる。脱出を試みる男と、砂掻きという労働を淡々と受け入れる女、そして穴の上から二人を見張る村の人々。まるでアリ地獄に捕まったアリのように、男は抗い続ける。読者レビューには「口の中がジャリジャリしてくる」という言葉があるほど、砂の描写はリアルで生々しく、読んでいるだけで息苦しさが積み重なっていく。しかしこの作品の真の恐ろしさは砂そのものではなく、閉塞した環境に人間がどう順応していくか、その過程を容赦なく描いた点にある。ブラック企業、宗教的な従属、現代社会のあらゆる不条理に置き換えられる普遍的な不安が、この作品には宿っている。どんな状況にも慣れ、意味を見出してしまう人間の慣習性と脆さ。逃げ出せるはずなのに逃げない男の結末は、読者それぞれに深い余韻と問いを残す。世界24か国以上で翻訳された、芥川賞作家による読売文学賞受賞の長編傑作。

楽天で見る
絶賛2,277
好評2,381
普通2,629
不評379
酷評131

TOTAL 7,797 reviews

2箱男

箱男

1973年刊行

4,462pt

TOTAL SCORE

ダンボール箱を頭からすっぽりかぶり、都市をさまよう男。覗き窓から世界を一方的に観察し、しかし自分自身は誰にも認識されない。その奇妙な存在こそが「箱男」だ。一切の帰属を捨て、存在証明を放棄した先に彼が求めたものとは何か。「誰だって、見られるよりは、見たいのだ」という鋭い一節が、この作品の核心を突いている。物語は箱男の手記という形式で進むが、やがて贋箱男が登場し、語り手の同一性そのものが崩れはじめる。「手掛かりの数だけ真相は存在する」とも評されるこの迷宮的構造は、読者を心地よい混乱へと引きずり込む。匿名性、見ることへの欲望、社会からの逸脱。これらのテーマはSNSが日常に浸透した現代においても、色褪せるどころかむしろ鮮烈に響く。難解ながらも「禁断の何かに触れているような感覚」と評されるこの実験的長編は、読後も問いかけをやめない、普遍の傑作である。

楽天で見る
絶賛706
好評835
普通1,236
不評206
酷評58

TOTAL 3,041 reviews

3壁

1951年刊行

4,449pt

TOTAL SCORE

ある朝、男は自分の名前を思い出せなくなった。名刺を確認しようとすれば名前の欄だけが消え、身分証明書も同様に空白。たったそれだけの出来事が、男の存在そのものを根底から揺るがしていく。名前を失うとは、社会における居場所を失うことであり、他者との関係性を失うことでもある。名刺に自分を奪われた主人公は、マネキン人形やラクダに奇妙な愛情を抱きながら、不条理な裁判や摩訶不思議な出来事に次々と巻き込まれていく。カフカ的な世界観でありながら、カフカよりはるかに軽く明るい印象を持つと評される独特の筆致が特徴的で、「わからないのに何度も読んでしまう中毒性」を持つと語る読者も多い。三部構成のそれぞれに異なる寓話が展開され、どの物語も自己のアイデンティティが静かに溶けていく恐怖と、そこに潜むブラックユーモアが同居する。これは著者のデビュー作にして芥川賞受賞作であり、孤独な人間の実存を問い続ける野心的な不条理文学の傑作である。

楽天で見る
絶賛656
好評681
普通1,001
不評137
酷評29

TOTAL 2,504 reviews

4人間そっくり

人間そっくり

1967年刊行

2,914pt

TOTAL SCORE

火星人を題材にしたラジオ番組の脚本家のもとに、突然「自分は火星人だ」と名乗る男が訪ねてくる。はたして彼は単なる妄想を抱えた人物なのか、それとも本物の火星人なのか。読者のレビューには「魅惑よ魅惑」という言葉があるが、まさにその表現がぴったりの作品だ。物語はほぼ密室での会話劇として展開され、男の巧みな弁舌に脚本家はじりじりと追い詰められていく。何が事実で何が妄想なのか、境界線はどろどろに溶け出し、やがて「人間とは何か」という根本的な問いそのものが崩れ始める。読者からは「得体の知れない何かに振り回されることがこんなに面白いとは」という声も上がっており、正気と狂気が混じり合う空気感が独特の中毒性を生んでいる。二転三転する展開の果てに待つ結末は、沈黙以外の答えを許さない鋭さを持ち、読後も頭の中で思考が渦を巻き続ける。芥川賞作家が挑んだ異色のSF長編。

楽天で見る
絶賛255
好評274
普通412
不評30
酷評4

TOTAL 975 reviews

5第四間氷期

第四間氷期

1959年刊行

2,894pt

TOTAL SCORE

未来予測を行う電子頭脳、つまり現代で言うところの人工知能を開発した博士が、ある平凡な中年男の未来を予言させようとしたことから、物語は急転直下の展開を見せる。翌日その男が何者かに命を奪われ、博士は自身への疑いを避けるべく、亡き男の記憶を解析しようと試みる。するとそこから胎児売買の闇組織が浮かび上がり、やがて妻の堕胎、水棲哺乳類の研究、そして人類の苛酷な未来へとなだれ込んでいく。ミステリー、生命科学、ディストピアSFが渾然一体となった構成は、読み始めの印象を序盤で早くも裏切り、後半にかけてページをめくる手が止まらなくなると多くの読者が証言する。薔薇色の未来を盲信し、日常に安住する者への痛烈な告発。未来は現在を裁くものとして描かれており、日本最初期の本格長編SFにして、ポストヒューマニズムの先駆けとも評される異色作である。

楽天で見る
絶賛249
好評261
普通261
不評22
酷評5

TOTAL 798 reviews

6他人の顔

他人の顔

1964年刊行

2,871pt

TOTAL SCORE

事故によって顔一面にケロイドを負い、他者との接点を失った男の物語。顔は単なる身体の一部ではなく、他者と自分をつなぐ橋であると気づいた男は、その喪失によって孤独と疎外感に深く蝕まれていく。やがて彼は、プラスチック素材で他人の顔をかたどった精巧な仮面を作り上げ、別の人格として妻に近づく計画を実行に移す。三冊のノートに綴られる独白は、粘着質なまでに執拗で、仮面と素顔、そして仮面によって生まれた第三の人格が複雑に絡み合う。仮面をつけることで解放された高揚感は、やがて制御不能な侵食へと変わり、どちらが本当の自分なのかという問いが男を追い詰めていく。ペルソナが使い分けるものではなく乗っ取るものとして描かれるこの構造は、読者に自分自身の顔とは何かを問いかける。そして物語の終盤、男の長大な独り言はある一点によって鮮やかに覆される。人間の実存が根底から揺らぐ問題作。

楽天で見る
絶賛254
好評296
普通382
不評27
酷評14

TOTAL 973 reviews

7カンガルー・ノート

カンガルー・ノート

1991年刊行

2,439pt

TOTAL SCORE

ある朝目覚めると、脛にかいわれ大根が自生していた。病院を訪れた男は、気づけば生命維持装置つきのベッドに括りつけられ、意思を持つそのベッドは行き先も告げずに走り出す。坑道、賽の河原、吸血娘の潜む廃線沿い、そして謎めいた共同病室へ。「前衛的」の枠を超えて、脳を殴ってくる作品、との声もある通り、荒唐無稽な夢が折り重なるように続く一方、どんなに哀れな場面が描かれても、笑わせる箇所が必ずちりばめてある。シュールで不可思議な展開は何のメタファーなのか、生と死が溶け合う世界に、掴みどころのない死生観が内包されている。著者は長年にわたり病と闘いながらこの作品を書き上げたとされ、死を嘲笑し、死の無意義を暗示しながらも、最終的に勝負の軍配はどちらに上がったのか。読者によって笑劇にも悲劇にも映るこの物語は、果てなき冥府巡りの末、静かに最後の一語へとたどりつく。

楽天で見る
絶賛217
好評218
普通401
不評36
酷評21

TOTAL 893 reviews

8笑う月

笑う月

1975年刊行

2,329pt

TOTAL SCORE

直径1メートル半ほどのオレンジ色の満月が、ただふわふわと追いかけてくる。小学生の頃から繰り返し見るこの悪夢は、著者にとって「恐怖の極限のイメージ」だと言う。悪夢は現実の恐怖を上回る、そんな体験を持つ人もいるだろう。本作は、著者が枕元にテープレコーダーまで持ち込んで記録した、夢のスナップショット全17編を収めた作品集だ。エッセイのようでもあり、シュールな短編小説のようでもある。著者自ら「意識下でつづっている創作ノート」と呼ぶこの夢の断片たちは、代表作「砂の女」や「箱男」など数々の名作が生まれた源泉でもある。空を飛ぶ男、謎の鞄に行き先を導かれる人物、泥の中から現れる仔象、そしてダンゴムシに薬の効用を求める奇妙な実験。訳がわからないということは、限りなく自由だ、という言葉が胸に刺さる。交錯するユーモアとイロニー、そして得体の知れない恐怖が混在する、安部文学の原点に触れられる一冊。

楽天で見る
絶賛185
好評250
普通435
不評58
酷評11

TOTAL 939 reviews

9方舟さくら丸

方舟さくら丸

1984年刊行

2,221pt

TOTAL SCORE

地下採石場跡に秘密裏に核シェルターを築き上げた男、通称「モグラ」。彼は来たるべき破滅の日に備え、みずからの方舟に乗るにふさわしい仲間を厳選し、「生きのびるための切符」を三人の男女に渡す。こうして始まった奇妙な共同生活は、洞窟への侵入者出現をきっかけに一気に崩壊へと向かい始める。さらには、あらゆるものを飲み込む万能便器に片足をとらわれ、身動きのとれなくなったモグラの計画は、どこへ漂流していくのか。登場するのは昆虫販売業者や的屋の男女、暴君的な父親に老人集団など、一癖も二癖もある人物ばかり。選民思想とその矛盾、閉ざされた空間で渦巻く欲望と駆け引きが、ブラックユーモアを交えながら描かれる。「まさに汚い不思議の国のアリスの世界」と評され、「読むたびに面白さが増す」と語り継がれる本作は、人類の愚かさと滑稽さを鋭く問いかける、現代文学の金字塔として名高い一冊である。

楽天で見る
絶賛165
好評141
普通200
不評18
酷評4

TOTAL 528 reviews

10水中都市・デンドロカカリヤ

水中都市・デンドロカカリヤ

1964年刊行

2,220pt

TOTAL SCORE

「狂っているのは、私か世界か。」この問いが、11編すべての底流に静かに流れている。 主人公コモン君がある日突然、見知らぬ植物へと変容していく表題作「デンドロカカリヤ」。そして、突如現れた父を名乗る男が奇怪な魚へと姿を変え、街全体が水中世界へと沈んでいく「水中都市」。いずれも、ごく平凡な日常の裂け目から、現実がじわりと溶け出していく様を描く。 読者レビューにあるように、「読むだけで簡単に不安になれる」のに、気づけばやみつきになっている。それはおそらく、不条理でありながら地の文が明晰で、ユーモアが悲壮さと背中合わせに存在しているからだ。変身するのは人間だけではない。常識も、空間も、価値観そのものも静かに変形していく。 解説のドナルド・キーンが語るように、「ふざけることと真面目さは矛盾しない」、これが著者の文学の核心であり、芥川賞デビュー前後に書かれた初期短編群に、すでにその独自の世界観が結晶している。

楽天で見る
絶賛154
好評159
普通283
不評12
酷評6

TOTAL 614 reviews

11R62号の発明・鉛の卵

R62号の発明・鉛の卵

1956年刊行

2,205pt

TOTAL SCORE

会社を解雇され、自らの命を秘密組織に売り渡してロボットへと改造された機械技師が、やがて人間を酷使する装置を生み出して復讐を企てる表題作をはじめ、冬眠装置の故障により80万年後の世界で目覚めた男のSF的冒険、羊の臓器を移植された男の違和感、人肉を食用とすることへの反対運動など、荒唐無稽でありながらも鋭利な風刺と深い思索に貫かれた12の短編を収録。人間が機械に、植物に、棒に変容し、犬が人間の言葉を理解し、死者が幽体となってさまよう。あらゆる既成概念をひっくり返し、人間中心主義そのものに根本から問いを突きつける。「世界が歪んで見えないか。君の脳をひっくり返してるのさ」という言葉が示すように、不条理の源には必ず理由があり、科学技術と社会への冷徹な批評が潜んでいる。

楽天で見る
絶賛141
好評218
普通270
不評26
酷評4

TOTAL 659 reviews

12燃えつきた地図

燃えつきた地図

1967年刊行

2,149pt

TOTAL SCORE

失踪した男を追う興信所員が、調査を進めるうちに次々と手がかりを失い、やがて自分自身をも見失っていく物語。探偵小説の衣を纏いながらも、その実態は都会という他人だけの砂漠に迷い込んだ現代人の孤独と不安を抉り出す純文学です。追う者がいつしか追われる者へと反転し、ポジとネガが入れ替わるように語り手の輪郭が溶けていく展開は、読者を強烈な不安へと引きずり込みます。なんて哀しくて無意味で自由、と評されるラストは、読後もじわじわと問いかけを残します。存在しないもの同士が互いに相手を求めて探り合っている、こっけいな鬼ごっこ、という一節が作品の本質を鋭く射抜いています。

楽天で見る
絶賛167
好評149
普通270
不評28
酷評8

TOTAL 622 reviews

13無関係な死・時の崖

無関係な死・時の崖

1964年刊行

2,083pt

TOTAL SCORE

自分の部屋に帰ると、見ず知らずの人物が息絶えていた。消し去ろうとすればするほど、逆に追い詰められていく。追う者が追われる者へと転じる「反転」こそが、この短編集全10編を貫くテーマです。心がグニャッとねじ曲がるような感覚、と評された独特の読み心地は、純文学とSFの中間に位置する唯一無二の世界観から生まれます。表題作をはじめ、自称・火星人に絡まれる宇宙学講師の話、緑色の人魚に恋する青年の物語など、奇抜な発想でありながら登場人物の内面描写がリアルに迫ります。読むほどに不安が乗り移り、その極限で恐怖や哄笑へと転化される手腕は見事です。結末まで読んでも「わかったようなわからないような」と感じさせる、このかゆさの正体こそが本作の核心といえます。

楽天で見る
絶賛152
好評144
普通229
不評24
酷評6

TOTAL 555 reviews

14密会

密会

1977年刊行

1,876pt

TOTAL SCORE

ある夏の未明、突然やって来た救急車が妻を連れ去った。男は妻を追って巨大な病院へと足を踏み入れるが、そこは出口のない迷宮だった。盗聴マイクによる監視、馬人間と名乗る副院長、試験管から生まれた秘書、骨が溶ける少女、そして仮面をつけた女。まるで浅い眠りで見る悪夢のような不条理な世界に、読者も引きずり込まれていく。探すものが、いつの間にか探されるものになる。色欲地獄という逆ユートピアとも評されるこの作品は、社会が煽り立てる欲望の悪循環がエスカレートした果てに現出する現代人の地獄を、野心的な構成で描き切る。主人公の結末はある意味で、命を落とすよりも悲しい。

楽天で見る
絶賛130
好評123
普通210
不評23
酷評7

TOTAL 493 reviews

15友達・棒になった男

友達・棒になった男

1969年刊行

1,851pt

TOTAL SCORE

平凡な男の部屋に、見ず知らずの9人家族が突然押し入ってくる。彼らは善意に満ちた笑顔で「孤独はいけない」と語り、隣人愛を説き続ける。だが、その親切心こそが逃れ難い呪縛となり、男を追い詰めていく。三島由紀夫をして「安部公房の傑作」と言わしめた戯曲「友達」をはじめ、人間が棒へと変わる不条理を描いた「棒になった男」、幕末の英雄・榎本武揚を斬新な解釈で描いた「榎本武揚」の3篇を収録。当たり前の日常が静かに異様へとすり替わっていく感覚は、どんな怪奇作品よりも深い恐怖をもたらす。

楽天で見る
絶賛110
好評129
普通173
不評17
酷評2

TOTAL 431 reviews

16けものたちは故郷をめざす

けものたちは故郷をめざす

1957年刊行

1,828pt

TOTAL SCORE

敗戦前夜の満州、ソ連軍が侵攻し、国府・八路軍が跳梁する混乱の中、まだ見ぬ故郷・日本をめざす少年・久木久三の壮絶な逃亡劇。素性の知れぬ謎の男と共に、零下三十度の極寒の荒野をひたすら南へと歩き続ける。「なんといっても一番危険なのが境界線」、敵か味方かすら判然としない世界で、二人は飢えと凍傷、そして人間不信に苛まれながら、けものとして生き延びようとする。安部文学の初期代表作でありながら、他の作品群とは一線を画す圧倒的なリアリズムの筆致。故郷とは何か、自由とは何かを問い続けた末に迎える衝撃的な結末が、深く胸に突き刺さる傑作長編。

楽天で見る
絶賛115
好評106
普通87
不評9
酷評6

TOTAL 323 reviews

17飢餓同盟

飢餓同盟

1954年刊行

1,274pt

TOTAL SCORE

雪に閉ざされた山あいの小都市、花園町。かつて温泉で栄えたこの町は今や凋落し、権力者たちが牛耳る閉塞した空気に包まれている。そこへ一人の男が帰郷したことをきっかけに、疎外されたよそ者たちが秘密結社のもとに集結し、地熱発電という大いなる野望を掲げて立ち上がる。しかし権力への夢は、現実という厚い壁に跳ね返され、やがて滑稽なまでに崩れ落ちていく。敗者に優しい結末など用意されてはいない。それ自体が巨大な病棟のような町で渦巻く人間の狂気と哀しさを、アイロニーとユーモアを纏わせた筆致で描いた作品であり、わたしたちすべての人間の内に潜む狂気が明るみに出されている。

楽天で見る
絶賛53
好評96
普通192
不評22
酷評3

TOTAL 366 reviews

18飛ぶ男

飛ぶ男

1994年刊行

1,228pt

TOTAL SCORE

ある夏の朝、夜明け前の住宅街の上空を、意思を持つかのように滑空する人間そっくりの物体が現れる。目撃者は三人、暴力団の男、男性不信の女、そして中学教師。突如放たれた二発の銃弾が、三者の運命を奇妙に絡み合わせていく。死後フロッピーディスクから発見された未完の遺作であり、読者レビューでは「カフカ的未完成交響曲」「読み始めたら止まらない」と称される一方、「結末を永遠に知ることができない」という喪失感も語られる。不条理にしてユーモラス、荒唐無稽でありながら細部に宿る強烈なリアリティ。断片のまま閉じられた物語は、読み手の想像を広大な余白へと解き放つ。

楽天で見る
絶賛61
好評85
普通115
不評16
酷評7

TOTAL 284 reviews

19死に急ぐ鯨たち

死に急ぐ鯨たち

1986年刊行

1,049pt

TOTAL SCORE

想像力不足からくる楽観主義へ警鐘を鳴らす表題作をはじめ、国家、言語、儀式、科学、芸術を縦横に論じた評論集。エッセイ、インタビュー、日記という多様な形式を通じて、長年にわたり内面を明かさなかった世界的作家の隠された素顔が浮かび上がる。「書く行為に理由などあるはずがない」と言い切りながらも、人間の集団心理やナショナリズムの危うさを極めて理系的かつ明晰な論理で切り刻む。絶望は希望の一形式であると見定めた作家の言葉は、社会の本質を鋭く射抜く警鐘として響く。

楽天で見る
絶賛41
好評33
普通51
不評3
酷評0

TOTAL 128 reviews

20カーブの向う・ユープケッチャ

カーブの向う・ユープケッチャ

1988年刊行

790pt

TOTAL SCORE

記憶が突然途切れた男が、自分の存在そのものを疑い始める表題作。「お馴染みの風景にふと疑問を抱いた結果、自分という存在すら、瞬く間に失われてしまう」という感覚が、読者の内側にもじわりと侵食してくる。もう一つの表題作では、自らの排泄物だけを栄養源とする奇妙な昆虫が、閉じた世界の寓意として機能し、ユーモラスでありながら鋭い問いを投げかける。本短編集には、砂の女や燃えつきた地図など、後の傑作長編の原型となった作品が複数収録されており、作家の創作現場を覗き見るような読書体験が得られる。カフカの不条理が外から押し寄せるものだとすれば、この作家の不条理は内側へと限りなく沈潜していく。

楽天で見る
絶賛31
好評15
普通52
不評5
酷評0

TOTAL 103 reviews

21粘土塀(改題: 終りし道の標べに)

粘土塀(改題: 終りし道の標べに)

1948年刊行

769pt

TOTAL SCORE

幻のデビュー長篇小説。敗戦直前の満州を舞台に、故郷を自ら捨て匪賊に囚われた日本人青年が、阿片の靄の中でノートに思索を刻みつけていく。故郷とは何か、自己とは何か、存在するとはどういうことか。青臭くも真摯な観念が、閉じた空間にこだまする。「終わったところから始まる旅に終わりはない」という一文が、その後の作家人生の全てを予言するかのように響く。埴谷雄高が何かの予感を禁じ得なかったというこの原点には、後の代表作群へと続くテーマの種が、すでに静かに息づいている。難解と評されながらも、特定の読者の心にはダイレクトに突き刺さる、故郷喪失者の魂の記録。

楽天で見る
絶賛34
好評20
普通68
不評9
酷評2

TOTAL 133 reviews

22榎本武揚

榎本武揚

1965年刊行

691pt

TOTAL SCORE

旧幕府軍を率いながら新政府に降伏し、その後要職を歩んだ榎本武揚。彼は時代の先駆者なのか、それとも裏切者なのか。物語は北海道の雪原に消えた三百人の囚人の伝説から幕を開ける。元憲兵の男が執拗に追い続ける榎本の実像、そして榎本暗殺を企てる者たちの影。史実と虚構が巧みに織り交ぜられた入れ子構造の語りは、「どこまでが真実か」という問いを読者に突きつける。土方歳三との鮮烈な対比を通じて浮かび上がるのは、忠誠と転向、信念と現実のはざまで引き裂かれた人間の業である。「汚名に甘んじる勇気もない者に、忠誠を弄んだりする資格はない。」この一言が、歴史の評価とは何かを静かに問い続ける。

楽天で見る
絶賛24
好評40
普通45
不評9
酷評3

TOTAL 121 reviews

23(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集(改題: 題未定 安部公房初期短編集)

(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集(改題: 題未定 安部公房初期短編集)

2013年刊行

680pt

TOTAL SCORE

太平洋戦争末期、満州で激動の日々を過ごした青年が書き残した、11の初期短編を収めた作品集。19歳で書かれたデビュー作では、曲馬団を抜け出し定住を切望する少年の姿が描かれ、その筆力は「圧巻」と評されるほど。2012年に新たに発見された「天使」では、精神病棟から抜け出した男が自らを閉じ込める部屋を宇宙と捉え、存在の本質に迫る。読者からは「読めば飛ぶぞ」と称されるほど詩的かつ哲学的な文章が随所に溢れ、後年の代表作へと連なる思想の萌芽が随所に刻まれている。未完や原稿欠落の作品も含むが、それもまた生成期の息吹として、世界文学の巨星が誕生するまでの軌跡を伝える貴重な一冊。

楽天で見る
絶賛24
好評34
普通44
不評7
酷評3

TOTAL 112 reviews

24内なる辺境

内なる辺境

1971年刊行

621pt

TOTAL SCORE

書くことには集中があり、対話には挑発があり、談話には自由がある。孤高の前衛作家が、ミリタリールックへの考察から人類の起源にまで思いを馳せ、正統と異端の構造を鋭くえぐり出す連作エッセイと、文学・演劇など芸術観のすべてを語った対談・インタビューを収録した合本版。農村的なものと都市的なもの、定着と冒険という二項対立を軸に、ユダヤ人迫害やカフカ文学の普遍性にまで論を展開する。安部作品の舞台設定の根源を探れる一冊とも評され、小説とは異なる形で創造の核心に迫る。著者自身が撮影した写真も多数収録されており、作家の思想を多角的に体感できる。

楽天で見る
絶賛22
好評20
普通38
不評6
酷評1

TOTAL 87 reviews

25砂漠の思想

砂漠の思想

1965年刊行

608pt

TOTAL SCORE

「早く来すぎた思想者」と称されるほど、鋭く時代を先取りしていた作家のエッセイ集。代表作である砂の女や他人の顔を刊行した時期に著された初期の思考が、精選された形でまとめられている。社会批評から映画論、寓話的な物語、対話篇まで、実に雑多な形式を横断しながら、常識や良識への鋭い疑念が一貫して流れている。「砂漠」「辺境」「言語」を軸に展開されるその思考は、切れ味鋭くクールでありながら、論理の飛躍を恐れない独自の知性に満ちている。小説作品の思想的な原点を探る創作ノートとしての側面も持ち、あの不条理な世界観がいかにして生まれたかを垣間見ることができる一冊。

楽天で見る
絶賛18
好評14
普通43
不評3
酷評0

TOTAL 78 reviews

26幽霊はここにいる・どれい狩り

幽霊はここにいる・どれい狩り

1959年刊行

455pt

TOTAL SCORE

初期に書かれた三篇の戯曲を収めた一冊で、いずれも「存在しないもの」を商売の種にしようとする人間の欲望と滑稽さを描いている。架空の生物ウエーをめぐる騒動を描いた「どれい狩り」、幽霊を使って一山当てようと企む詐欺師と町の有力者たちの攻防を描いた「幽霊はここにいる」など、浅はかな企みと予期せぬ展開が絡み合うブラックコメディだ。見えないものにこそ踊らされてしまう人の滑稽さ、そして欲の皮が突っ張ると疑いながらも乗せられてしまう普遍的な人間の性が、鋭い風刺とユーモアで描かれる。資本主義の空虚さを笑い飛ばしながら、存在と非存在の証明という哲学的命題をも内包した、唯一無二の戯曲集である。

楽天で見る
絶賛14
好評13
普通32
不評2
酷評2

TOTAL 63 reviews

27反劇的人間

反劇的人間

1973年刊行

393pt

TOTAL SCORE

前衛作家と日本文学研究の第一人者による、刺激に満ちた対談集。日本人論を起点に、演劇・小説・音楽など多岐にわたるテーマが縦横無尽に展開される。普遍から特殊を見出す視点と、特殊から普遍を求める視点がぶつかり合い、話題は川端康成と谷崎潤一郎の比較から、ベケットの時間表現まで縦横に広がる。読めば読むほど味が出る本とも評され、何度読み返しても新たな発見があると多くの読者が語る。結論を急がず、すれ違いをすれ違いのままに進む議論の緊迫感こそ、この対談の核心といえる。

楽天で見る
絶賛19
好評6
普通18
不評3
酷評3

TOTAL 49 reviews

28石の眼

石の眼

1960年刊行

367pt

TOTAL SCORE

外界から切り離されたダム建設現場を舞台に、政治と業者の癒着による手抜き工事の闇が渦巻く社会派サスペンス。コンクリートの欠陥発覚を巡り、それぞれの利権を抱えた関係者たちが疑心暗鬼に陥るなか、一人の殺し屋と所長の娘が現れたことで、現場の均衡は崩れ始める。各登場人物の視点から語られる群像劇は、芥川龍之介の藪の中を彷彿とさせる錯綜した構造を持ち、誰が何を企んでいるのかが判然としない緊張感が続く。砂の女以前の試行錯誤的な時期に生み出されたミステリー仕立ての異色作でありながら、人間はただやみくもに血と汗を流し奪ったり奪われたりしながらどこかに消えてしまい、あとはただダムだけが残るという一節が物語の本質を鋭く突いている。

楽天で見る
絶賛11
好評5
普通20
不評2
酷評0

TOTAL 38 reviews

29夢の逃亡

夢の逃亡

1968年刊行

337pt

TOTAL SCORE

戦後の混乱と価値観の崩壊を背景に生まれた、七つの初期短編を収録したデビュー作品群。「既成概念をぶっ壊す」という衝動に突き動かされた、飢えた青春そのものの記録である。表題作では名前の喪失をテーマに、あらゆる価値の否定を寓話として描き、後の代表作へとつながる実験的な思索が展開される。カフカに似た出口のない混沌と、そこから逃れられない苛立ちが全編を貫き、現実と夢の境界が白昼夢のように溶け崩れてゆく。観念的で難解ながらも、最後の一文の冴えは天才的と評されるほど完成された筆致を持つ。名前を失うことで内部と外部に新たな価値を見出そうとする問いは、読者の存在認識そのものを揺さぶる。

楽天で見る
絶賛9
好評10
普通33
不評6
酷評0

TOTAL 58 reviews

30文学者とは何か

文学者とは何か

2024年刊行

229pt

TOTAL SCORE

小説を書く意味とは何か。良い批評とはどうあるべきか。作品において重要なのは細部か、それとも全体か。まったく異なる思想と文学観を持つ昭和の三大作家が、互いへの敬意と遠慮なき批評精神を携えて繰り広げる文学論の応酬を収めた対談集。若き日の緊張と躍動に満ちた三者鼎談から、一人が世を去った後に残る二人が静かに回顧する場面まで、時間の経過が対話に独特の深みを刻んでいる。三者三様の思考が火花を散らしながらも、文学というものへの純粋な信頼が全編を貫いている。

楽天で見る
絶賛13
好評8
普通10
不評4
酷評3

TOTAL 38 reviews

← 小説ランキング一覧へ